Presented by EventHub
Vol.4

AIと組む、
イベント担当者の
新しい仕事術。

AIに頼める仕事と、人が持つ仕事の境界線とは?

さて、突然だが、触って遊べるプリンを用意した。

マウスや指で、引っ張ってみてほしい。

このプリンは、エンジニアではない筆者が、AIに言葉で伝えるだけで作った。思いついたものを自分の手ですぐ形にできる時代は、もう来ている。

作れた理由は1つで、何をしたいか言語化できたからだ。

同じことが、毎日の仕事にも言える。

この号では、私たちが実際にやってみた4つの仕事から、AIに頼めたものと人が持ったものを分け、明日から使える「1行の書き方」を持ち帰ってもらう。

壁打ちと校正の次に、AIに頼めるものは何か

企画の壁打ちはChatGPTに相談する。文章の校正はGeminiに頼む。調査結果のファイルを集めてNotebookLMで知見の社内共有を始めている人もいるだろう。では、その次は何を頼めるのか。イベントマーケに携わる人なら、一度は考えたはずだ。

私たちの答えは、こうである。AIに頼める仕事と自分が持つ仕事の境目は、仕事の種類では決まらない。AIの賢さでも決まらない。その仕事の「文脈」と「判断」を、自分たちが言葉にしてAIに渡せる状態にあるかで決まる。これさえ回すことができれば、単発相談にとどまっていたAIに頼める仕事の幅が一気に広がる。

ここから話すことは、ChatGPTやGeminiで始められる。まず1つ試して、自分の投げかけで答えが変わる手応えをつかむ。その手応えが出てきたら、次の道具へ進めばいい。ファイルを1つずつ貼るのではなく、手元の資料をまとめて読ませ、作業まで進めてくれるClaude CodeやCodexといったAIエージェントがそれにあたる。

「作る仕事」は頼めている。
「毎日決め直す仕事」は、なぜ頼めないのか

いまAIに頼めている仕事を、ここでは「作る仕事」と呼ぶ。集客メール、案内文、企画書のたたき、調べもののまとめ。ゴールは1つで、出来上がりを読めば良し悪しが分かる。

一方、ウェビナーやカンファレンスなどイベントマーケの仕事には「毎日、数字や状況を見て決め直す仕事」がある。この広告を続けるか、止めるか。この人に登壇を頼むか。リード進捗の把握と打ち手をどうするか。答えは、昨日の数字と今日の状況で変わる。

この2つ目の仕事をAIに丸投げすると、答えは「それっぽく」なる。広告の数字を貼って「この広告、続けるべき?」と聞けば、もっともらしい答えが返ってくる。だが、その答えの「良し悪しの線」は、AIが一般論から補ったものだ。申込1件にいくらまでかけてよいのか。AIはそれを知らない。AIが悪いのではない。判断の材料を渡していないのである。

では、何を渡せば頼めるのか。私たちの経験では、条件は3つだった。

1つ目。「どうなったら何をするか」の具体的な指示を先に決め、背景にある理由と併せてAIに伝える。 例えば、先般担当したウェビナーの広告集客でAIに伝えたことは、こうだ。「申込1件にかけてよい上限の金額は〇〇円。なぜなら、この申込先のコンテンツの目的は〇〇で、こういうターゲットを想定しているから。1本の広告がその金額を使い切っても申込がゼロなら、その広告は止める」。この文脈と定量のルールがあると、AIは条件に当てはまる広告を探して提案できる。人は、提案が条件を満たしているかで判断できる。明日やるなら、迷いそうな判断を1つ選んで、「〇〇が△△になったら、□□する」の形で1行書き、理由を1文添える。

前職で、自社カンファレンスの集客を定期的に担当していた頃はまだAIと組む前だったので手で運用していた。出だしの申込の伸びがこの程度なら早めに広告の画像や文面を差し替える、広告が出る場所ごとに申込の取れ具合を比べて悪い場所は止める、といった経験則には根拠があった。配信中は状況が毎日変わるので、その日の状況に合わせて素早く動くことを優先し、明確な線を引かずにその場で決めることも多かった。ただ、根拠のある経験則でも、頭の中にあるうちはAIには渡せない。言語化することで、はじめて渡せる。

2つ目。AIには「提案まで」を頼み、実行は人が「OK」と言ってからにする。 実行とは、広告を止める、メールを送る、設定を変える、といった動きのことだ。チャットのAIは勝手に動かないが、返ってきた案をそのまま採れば、決めたのはAIになる。だから、まずは「実行前に案を出して。私が決める」と頼む。実行前に1ステップあると、自分の考えとAIの案が合っているかをすり合わせやすい。自分の上長や周囲に「なぜこういう企画に至ったのか」と聞かれた時「AIがそう言ってたので」と返事をしてしまいそうになっていないか?その場合は、今一度手順を見直してみるべきだ。

3つ目。決めたことと理由を、次にAIへ渡せる形で残しておく。 いま、あなたの仕事の状況をどこで把握できるかは、おそらく頭の中が多くを占め、残りはSlackやGoogleドライブやNotion、一部はメールボックスと散在しているだろう。決めたことと理由を、文字で残しておく。頭の中にしか無いものはAIに渡せないが、文字になっていればファイルごと渡せばよい。散っていても構わない。繰り返す仕事なら1つの型にまとめると速くなる、というだけだ。要は、判断のたびに「何を・なぜ」という文脈も含めて言語化し、AIに共有することだ。

FIG. 1頼めるようにする3つの条件
  1. 指示と理由を先に

    「どうなったら何をするか」を先に決め、理由と併せて伝える

    「〇〇が△△になったら、□□する」を1行書き、理由を1文添える

  2. 「OK」は人

    AIには「提案まで」。実行は人が「OK」と言ってから

    「実行前に案を出して。私が決める」

  3. 決めたことと理由を文字で残す

    決めたことと理由を、次にAIへ渡せる形(文字)で残す

    散っていてもよい。繰り返す仕事なら型に

作る仕事の前提
  • 自社の事情(文脈)を渡す
  • うまくいった頼み方の文面を残す

私たちの4つの仕事で、どこまで頼めたか

4つとも、別々の場面の話である。

1. 集客の日次管理:1行があると、AIの提案に「まだ」と言える

効いた条件
  1. 指示と理由を先に
  2. 「OK」は人
  3. 決めたことと理由を文字で残す

先述したウェビナーの広告集客の話だ。広告の数字(使った額と申込の数など)は、毎日AIに渡した。AIはそれを読んで前日との差を診断し、次にやることを理由つきで提案する。人間が確認して問題ないと判断したものだけ実行する。

場面を2つ書く。

AIの提案を受け入れなかった日。AIが、使った広告費が少なく申込ゼロの広告を止めるよう提案した。筆者は「使った額がまだ少ないからゼロなのであって、悪い広告だと決まったわけではない」と返し、止めなかった。止める条件には、まだ届いていなかったからだ。翌日、その広告が、同じ条件で出していた広告の中で唯一の申込を取った。断片的な判断の材料で結論を出さないよう、止める条件の定義を書き足そうとAIと合意した。足りないルールは、こうして運用に合わせてメンテナンスし続けた。

AIが自分で出した意見を撤回した日。前日に変えた広告の設定が効いているかを、AIは夕方の途中の数字で見て、「効いていない」と判定した。翌朝、1日が終わってからの数字を見ると、狙った水準の9割近くまで改善していた。AIは判定を撤回し、「途中の数字で判断しない」を決まりに書き足した。

FIG. 2毎日のループ

人が持つ

「OK」と、1行に書いていないこと

  • 使った額がまだ少ない広告は止めない提案を受け入れなかった日
  • 途中の数字で判断しないAIが撤回して決まりに書き足した日
数字
使った額と申込の数
診断
前日との差
提案
次にやることを理由つきで
記録
決めたことと理由

内側=AIがやる(数字を読む・診断・提案・記録の下書き)/外側=人が持つ

2. 登壇候補探し:背景と文脈を伝えると、候補の顔ぶれが変わる

効いた条件
  1. 指示と理由を先に
  2. 「OK」は人
  3. 決めたことと理由を文字で残す

2つ目は、さまざまなイベント・セミナーにおける登壇候補探しのAI活用を模索した際の話だ。

ネットに情報が広く載っている人物なら、AIのリサーチがいちばん速い。著書や登壇歴などの公開情報に、その分野と自社とのつながりや、過去の参加者がどんな層だったかの傾向を重ねる。AIは候補ごとに「なぜこの人か」の仮説まで組んだ。

ここでも効くのは、自社ならではの文脈と、どんな相手に何を伝えたいかの定義だ。そこを変えると、候補の顔ぶれはがらりと変わる。私たちの最初のリストは「イベントマーケティングの分野で名の知れた人」という軸で並んでいた。「裾野の広い層も集めていい。過去の参加者を調べると、新規の商談は〇〇の傾向があった」と書き換えると、AIは同じ材料から順位を組み直し、一度は見送った候補を第1優先に戻した。こう書くと当然のようだが、「〇〇系の著名人を出して」「〇〇のテーマを話せる人を探して」のように漠然とした条件でAIに調査させていないだろうか。新しいチームメンバーに説明するように背景と文脈まで伝えると、精度は上がりやすい。

AIのリサーチが弱いところもある。同じ分野の人たちの間では実力者として知られているが、記事も登壇動画も出てこない人だ。どんなやり取りを好み、どう頼めば動いてくれるかは、仲介する会社の知見や人づてに聞く話のほうが強い。依頼書の下書きとテーマの相談はAIと一緒にできるが、送るのは人だ。誰に頼むかの決定は、いまのところ人が持っている。

3. リード進捗速報:展示会での獲得速報を自動投稿する

効いた条件
  1. 指示と理由を先に
  2. 「OK」は人
  3. 決めたことと理由を文字で残す

3つ目は展示会の話だ。頼めたのは、名刺と商談の約束(アポ)の目標に対して、いまどこまで来ているかを1時間ごとに知らせるSlack速報である。誰が何枚取ったか、相手の温度感別の内訳も簡潔に入る。

FIG. 31時間ごとに届く速報のイメージ(名前・数字は架空)

ブースでスキャンした名刺の記録は、共有の表に自動で集まるようにしてある。AIは決まった時刻ごとにその表を読み込み、先に決めた手順に集計と判定をさせ、出てきた文面をSlackへ投稿する。

これで変わるのは、人の時間の使い方だ。展示会の担当者や現場のディレクターは、これまで当日のかなりの時間を集計に割いていた。その作業がなくなると、本来やるべき仕事に当たれる。名刺の数が伸びなければ、ブースの布陣や声かけを見直す。声かけから説明員への引き渡しが弱ければ、その接続を手厚くする。商談の見込みが足りなければ、獲得済みの名刺への連絡を早め、どこがネックかを現場の説明員とその場で相談して、当日に打てる手を捻り出す。

AIは、ルールにして繰り返す作業に強い。思い当たるものは、どんどん渡してよい。ウェビナーなら、申込の数や当日の参加の数を決まった時刻に知らせる速報が、これにあたる。

これから頼みたいこと:カンファレンスの社内質問

これから要る条件
  1. 指示と理由を先に
  2. 「OK」は人
  3. 決めたことと理由を文字で残す

ほか、今後見据えているAIの活用方法もまだある。

カンファレンス時の社内質問への対応だ。カンファレンスでは、開催の1〜2か月前から、主幹(イベント全体を仕切る担当)以外の社内関係者からの質問が急に増える。答えに要る状況(進行の最新、担当、登壇時間、想定トラブルへの対応)は、資料としては全部ある。だが散っていて、疑問が出た際に答えを探すのに苦労するので結局主幹へ似たような質問が集中する。よくある質問への回答を一覧にしても、網羅するのは難しい。

そこで、私たちが次に実践しようとしているのは、こういう形だ。進行の資料を1か所に置き、誰でも気軽に質問できる場所。質問の窓口を1つにして、AIが即答できるものは即答し、できないものは担当者に回す仕組み。本番当日に登壇時間が近づいたら本人に通知して、確認の印を返してもらうような応用も効く。AIとの協働を見据えたドキュメント管理が前提となるが、それさえ怠らなければ全員が幸せになる取り組みだ。

4. イベントの設定:AIの手が、ツールの中に届き始めた

効いた条件
  1. 指示と理由を先に
  2. 「OK」は人
  3. 決めたことと理由を文字で残す

4つ目は、まだ始めたばかりの話だ。

ウェビナーを立てるたびに、私たちは企画書の中身をツールの設定画面へ1項目ずつ写してきた。決める仕事ではなく、写す作業だ。

10月、EventHubは、ツールの中に直接手が届く入口を、MCP(AIに道具を持たせるための共通の規格)に沿って開いた。Claudeなど、この規格に対応したAIから使える。最初は、AIがイベントの情報を読み出すところまで。この先は、企画書を渡して「この内容で設定して」と頼めば申込フォームやアンケートの設定をAIが下ごしらえし、「今月のセミナーの実績を比べて」と頼めば回をまたいで並べる、といった使い方を、一緒に試す企業と広げていく。私たちマーケ部門は、ひと足先に使い始めている。

写す作業がAIに移っても、何を決めるかを言葉にし、反映に「OK」と言う役は、人に残す。渡す側の準備は、ここまでの3つの条件と変わらない。詳しくは、このあと案内するセミナーで話す。

AIは相棒。決めるのは自分

AIは相棒である。意思決定はさせない。判断と方針は、人が持つ。自社の状況や文脈をどう言葉にするか、誰にアプローチするか、成果物をどこまで磨くか。ここがブレると、判断が自分のものでなくなる。

この夏、筆者が広告で感じたのは「AIに任せて楽になった」ではない。もちろん工数減には大きく影響しているのも事実だが、どちらかというと「人とAIが同じ数字を別々に見て、判断の質が上がった」という印象が強い。

作る仕事で身につけた前提は、決め直す仕事でも前提のまま残る。自社の文脈をAIに渡すこと。うまくいきやすい頼み方を見つけたらフォーマット化して再利用すること。チームやプロジェクトを人間同士でしっかり状況連携し合うのとやることは同じだ。イベントマーケに携わる全ての人は、実はもうAIを使いこなす脳を持ち合わせているということである。

次の判断を1つ、言葉にして渡すところから始めてほしい。

お別れに、もう1つプリンを置いておく。冒頭のプリンとは別物で、こちらはしゃべる。タップして話しかけてみてほしい。だんだん馴れ馴れしくなる。これもAIと組んで作った遊びだが、やりたいことを言葉にすればすぐ形になる、という今号の話の実物でもある。次に形にするのは、あなたの判断の1行だ。

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準備は速くなった。イベントは、良くなったか。

10月、EventHubは、普段使っているAIから直接触れられる入口(MCP)を開いた。ひと足先に使い始めた私たちのウェビナーをはじめとするイベント準備で、何が消え、何が残ったか。イベントが良くなるかどうかは、空いた手で何を決めるかにかかっている。その最初の1か月を書く。